【ネタバレ注意】2018年のM-1グランプリ優勝の瞬間に見た世の中の縮図
「ぬあぁぁぁぁあああ、でもそうだろうなぁ」
今年のM-1グランプリの優勝者が決まった瞬間、思わず肩を落とした。
このあと、今年の優勝者について触れるので、結果を知ってもいい方だけ読んでほしい。
チャンピオンの無邪気で素直な喜びの声が響く。
無情
本当に。あの舞台の上の無情な空気感。
どうしようもないことだけど、何人ものベテラン勢が、グッと息を飲む音が聞こえたような気がする。
年に1回、今年1番面白い漫才師を決める大会、M-1グランプリ。
漫才をやるコンビにとっては、1年間かけてこの大会に挑んでいる。
どうしても勝ちたい。
どうしても。
血を吐くような思いをしてきた努力が、報われるかどうかの瞬間。
全国でたった一組だけがチャンピオンになれる。
以前はデビューから10年以内、5年間の休みを挟んだあとはデビュー15年以内のコンビが対象に。
だからこそ、15年間、このチャンピオンを目指し、コツコツ舞台に立ち続けたコンビが、渾身の力をぶつけてくる。
技術も、力も、圧倒的なものを持っている。
だけど。
大会は、やはりLIVEだ。
その時の「空気」を支配できるものが、その日のチャンピオンになる。
その日の観客の、審査員の心を掴み、流れを、空気を支配できる力を持った人間が、その年のチャンピオンになる。
空気、流れ、タイミング、偶然、運。
努力と想いだけではコントロールできないそれらが、
勝敗を大きく分ける。
「やったー、やったー、やったー、やったー、やったー!!!!」
今、大阪でも勢いのある若手芸人。
色々な先輩芸人にかわいがられ、
たくさんの先輩芸人が、これからの活躍を、願っていた、
はずだった。
だけど。
「やったー、やったー、やったー、やったー、やったー!!!!」
無邪気にはしゃぐせいやの後ろで、肩を抱き合うファイナリストジャルジャルの福徳と和牛の水田。
今年がラストチャンスだったジャルジャルは、
舞台で何度も磨きをかけてきた渾身のネタで挑んだ。
毎年「優勝候補」と言われる和牛も一緒だ。
全国の舞台を回る中で、観客のリアクションを受け、
何度も見直し、練習を重ね、磨きに磨きをかけた渾身のネタを4分に収めた。
だけど。
若さ、勢い。
それは時に、恐ろしいほどの力になる。
コツコツと大切に守り、磨き上げてきた質。
完璧なはずだったものが、負けてしまうことがある。
安定した上質な仕上がりが、
時に、ハラハラしてどうなるのかわからない荒削りな勢いあるものに、
空気を支配されてしまうことがある。
それはきっと、お笑いの舞台だけじゃない。
どんな業界でも、きっとそうだ。
「どうしてアイツが」
「なぜこの企画よりもあれが」
「なんであんな商品が」
その瞬間のために、死ぬ気でコツコツ重ねてきた努力が、
若さと勢いに、一気に覆されることがある。
だけど、それが事実だ。
冷静に考え、慎重に評価し、客観的に色々な事情を考慮すれば、違う見方もできるはずだ。
だけど。
人生は、LIVEだ。
瞬間瞬間が、勝負だ。
そんな中で、一瞬で人の心を奪うには、その場の空気を掴むには。
時に、技術や歴史や努力だけでは、
どうにもならないこともある。
そして。
長くその場にいた人であればあるほど、それを知っている。
だからこそ。
「どうして、あの時」
そんな眠っていた記憶が蘇ってくる。
あの時にもっと勢いがあれば。
あの時に、もっと覆せていれば。
だから。
あの時の悔しい想いがあったからこそ、
涙をこらえて、努力を積み重ねてきたのに。
「やったー、やったー、やったー、やったー、やったー!!!!」
はしゃぐせいやの後ろで、脱力して微笑むような和牛川西。
その向こう側には、ラストイヤーに掛けていたスーパーマラドーナ武智の闘志の抜けた表情。
今年も、M-1グランプリが、終わった。
終わったんだ。
結果が、出たんだ。
敗者復活戦で、2位で抜けられなかったプラス・マイナスも、今年がラストイヤーだった。
ファイナル出場のコンビが「敗者復活してほしくないコンビ」に口を揃えて名を挙げていたのは、プラス・マイナスだった。
視聴者が投票するシステムでは、圧倒的に不利な中、
それでも、15年間、それ以前からのお笑いに対する想いと技術とをすべてぶつけて
、会場で爆笑をとり2位まで上がってきた。
世の中には、努力だけでは、どうにもならないことがある。
ぶつけどころのない悔しさと、流すことのできない悔し涙と。
世の中には、そんな不条理な、昇華しきれない想いがたくさんある。
これがでも、現実だ。
去年は、泥水すすって這いつくばってなんとか生き延びてきたとろサーモンの優勝。
これは、みんなが手を叩いて抱き合って喜びやすい。
努力はいつか、報われる。
そんな希望を、見ている人に、与えてくれるからだ。
だけど今年のM-1グランプリは、きっと、30代以上の人にとっては、
クッと胸に迫るものがある大会だったように思う。
追っていたはずだった、攻めていたはずだった自分が、
いつの間にか、守りに入っていたことに気がつく。
それは決して、悪いことでも、間違っていることでもない。
正当にやっていれば、評価されることは、かならずある。
だけど。
合格点のその一歩先に行くには。
誰かの心を揺さぶるには。
その場の空気を支配するには。
技術と積み重ねだけでは、時に、足りないこともある。
そして、若さと勢いが脅威になる、瞬間がある。
「やったー、やったー、やったー、やったー、やったー!!!!」
優勝した霜降り明星のせいやがはしゃぎ、粗品がグッと涙を堪えていたその舞台の上で。
あの舞台の上では、なんだか世の中の縮図を見るようだった。
「これだけ笑いをとったら仕方ない」と思う一方で、「負けてしまったあいつの思いも痛いほどわかる」という年配者。
自分たちの歴史を振り返りながらも、若い王者に負けを認めざるを得ない先輩達。
世代交代を目の当たりにしながら、新しい自分達の道を行く決意を固めるベテラン。
そして、その舞台を画面越しに見ていた人たち。
今年も、本当に、面白い大会だった。
さぁ、明日からまた、新しい1年が、始まる。
画面越しに見ていたわたしは、明日から、どうやって生きていこうか。
少なくとも、慣れてきたことに悠々としていてはいけない。
そんな、気合の入る、本当に、面白い大会だった。