人生に時々起こる正解がまったくわからないこと。
「え……」
思わずラブホの前でタバコを吸っていた男性に目を向けた。
彼も困惑しているようだ。
どうしようか。
間違っているのか。
そうなら声をかけた方が親切なんだろうか。
いや、どうやって?
それに、もし、もしも、間違っていなかったらどうする。
余計なお世話にもほどがある。
タバコを吸っている男性の向かい側の通り。
こっちにも、一軒古いラブホテルがある。
数時間の休憩で数千円のボロいホテル。
その入口に向かって、
ゆっくり、ゆっくりと、
腰が曲がって杖をついたおじいさんとおばあさんが、
ゆっくり、ゆっくりと進んでいる。
なんとも似つかわしくない違和感のある光景。
ーーえ、いいんですかね? 止めなくていいですかね??
と、反対側のホテルの前でタバコを吸う男性を見やる。
--し、知らないよ。こっち向くなよ!!
という表情のお兄さん。
正解がわからず、そのまま過ぎ去るわたし。
その建物が何かを知っていて、
それでも休めるところを探していたのか。
それとも何も知らずに「休憩」できるところと思って入ってしまったのか。
んー、それともそれが何かも知っていて、それが目的で入っていったのか……
確かに、そんな小説あったなぁ。
いや、でも。
人生には時々、正解が全くわからないことがある。
35年近くも生きていれば、大抵、これはこうかな? と想像がつくことが増えてくる。
この人、いま落ち込んでるから、こうしたら喜んでくれるかな。
この人、今はすごく怒ってるけど、でも、本当はこう言ってほしいんじゃないかな。
もちろん、それが毎回そうなるとは限らない。
勘違いのことだってたくさんある。
だけど、10代、20代の頃に比べれば、想像がつくことは増えてきた。
でも。
時々やっぱり、何をどう考えても理解できないことがある。
ある種のカルチャーショック。
でも、だからこそ、人生は面白いのかもしれない。
慣れたって調子に乗ってれば転ぶ。
わかった! って知った気になってれば落とされる。
きっと、人生は綱渡りみたいなもんだ。
絶対大丈夫なことなんて、何一つない。
毎回が命がけだ。
そう思ってどんなことも真剣に考える。
どうでもいいよと思わずちゃんと向き合う。
そうやって一つずつ綱渡りの難易度を上げてクリアーしていけば、自分に自信が持てるようになる。
そして、不安定な綱を渡るために、余計なものは捨てていく。
素直に、シンプルに、真っ直ぐに。
うーん、だけど、やっぱりわからない。
あのおじいさんとおばあさん。
まるで漫画のように腰が折れ曲がって、杖をついて、カタカタ震えながらゆっくりと歩いていたおじいさんとおばあさん。
無言でカタカタと、ラブホに吸い込まれていった。
最近は、女性同士でコスプレの撮影会などでラブホを利用する人もいるらしい。
全く思いつかないような、だけど、ちょっとだけ軸をずらしたところに、ヒントがある。
きっと。
あのおじいさんとおばあさんの答えにも、何かヒントが隠れているのだろうと思う。
どうでもいいし、くだらない。
だけどきっと、そんなことを真剣に面白がれたとき、何か新しいことが、始まるんだと思う。
ん?
え?
ま、まさか、おじいさんとおばあさんも、コスプレの撮影会?!(笑)