本日はNew Year's Eve

30代OLが「書き手」になる夢を叶えるドキュメンタリー

本当にほしいものはなんだったのかな。でも、少なくとも、あの時は楽しかったね!

「そんなの当たり前じゃん」っていうことは、当たり前じゃないから。

それを、ぶっ壊すには、インドがいい。

 

そんな話を聞いてたら、ふと、あの子のことを思い出した。

 

「え、ぼく? それほんとにぼく? 嘘ぉ〜?!」って笑っていたあの子のことを。

 

もう10年も前になるだろうか。

 

ちょっとばかし、フィリピンに暮らしていたことがある。

 

フィリピンの人は楽しい。

底抜けに明るい。

こどもの目なんて、キラッキラしてる。

 

でも、

生活は楽じゃない。

 

家族を守るため、

今日のご飯を手に入れるためなら、

信念を曲げざるを得ないこともあるだろう。

そうやって一度自分に嘘をついてしまうと、何がほんとかわからなくなる。

 

がんばらなくたって、

まじめじゃなくたって、

むしろその方が、今日のご飯は食べれるからだ。

 

「お姉さぁん、お願い」

ふと振り返ると、真っ黒に汚れた手の少年が、私の腕のあたりを触っている。

トントンと叩くのではなく、

触れるか触れないかくらいの、

だけど、ねちっこい触り方だ。

上目遣いの少年は、口元に手を当て、眉を下げ、言葉に出さずに、媚びたような動きをしている。

 

物乞いだ。

 

フィリピンの街中にはよくいる。

そうしないと生きていけない人もいれば、

そうすれば生きていけるからやってる人もいる。

こどもの場合、大人にやらされてる場合もある。

 

最初のうちは、どうしていいかわからなかった。

かわいそうな気持ちと、ちょっと怖い気持ち。

財布でも開いた瞬間に全部盗られてしまうんじゃないか。

裏ボスが出てきて殴られたりするかもしれない。

そんな被害妄想を広げては怖がっていた。

 

でも、ある時、ふと思ったのだ。

 

本当に、お金をあげるのが、答えなのかな、と。

 

現地の人は、案外、小銭を渡す人が多い。

「正しいかどうか」

「本当の正解は?」なんて考えない。

 

「だってかわいそうじゃない」

返ってくるのは、その一言だけだ。

 

だけど。

日本人のわたしは、

外国人のわたしは、

それでいいのかなー、と、うんうん考えてしまう。

 

そしてある時、思った。

 

「彼らが本当にほしいものは、なんだろう」と。

 

現地の人が小銭を渡すと、彼らはそれをスッと受け取り、どこかへ行ってしまう。

 

「お腹が空いてるんだ」という少年に、持ってたパンをあげたら「それじゃなくてさぁ……」と断られたこともある。

 

そしてある時。

また少年がこちらに手を伸ばしてきたとき、

思わず、その手を取って握手をした。

「え?!」

彼はとても驚き目をパチパチしている。

「なんだ、手を伸ばしてきたから握手かと思ったよ」

そういうとびっくりしながらも「うん、もう1回! それにしよう」と言って、握手をしたり手をブンブン振ったりして、しばらく遊んでいた。

 

ある時は、手を伸ばしてきたので

「いぇーい」と言って、ハイタッチをしてみた。

「いやいやそうじゃなくて」

と言ってまた手を出してきたので

「いぇーい」と言って、またハイタッチをした。

すると、少年は笑い出し「イェーイ」と言って自分からハイタッチを求めてきた。

それ以来、彼は街で会うたび、「イェーイ」と言って、ハイタッチをするようになった。

 

またある少年が「お姉さん、お願いします……」と手を伸ばしてきたときは

「いやいや、わたしにちょうだいよ!」と言ってみた。

少年はびっくりして「え! いや、僕にちょうだいよ」とちょっと強気に返してくる。

だから

「いやいや、こないだあそこのお店で買い食いしてたでしょ! ずるいよ、あのお店高いじゃん! わたしよりいいもの食べてんじゃん!」っていうと「え、見てたの?! いついつ、どこで?! あそこ? あそこの店??」と嬉しそうに返してくる。

それ以来会うたびに「あのお店で僕を見たんだよね?」と笑って話しかけてくる。

 

もしかしたら、お金をドーーーンとあげたら、それはそれで、彼らは喜んだのかもしれない。

「今日」や「明日」くらいは楽になったかもしれない。

でも。

わたしには、そんなお金はなかった。

 

それに。

せっかく出会ったんだから、何か、自分しかしないような、ちょっとふふっと笑って元気が出るようなことができたら、楽しいなぁと思った。

 

育った環境も、これから生きていく環境もちがう。

だから。

「本当にほしいもの」

「正解」

「正しい答え」なんて、わからない。

 

だけど。

時間がたった今も、彼らのあの笑顔は、覚えている。

物乞いらしくしていた表情が、

クシャッと崩れて、その人らしさが見えた瞬間。

「え、ぼく? それほんとにぼく? 嘘ぉ〜?!」って笑っていたあの瞬間。

 

そんな瞬間に出会えることこそが、

一期一会、なのかもしれないなぁ。

 

そうだよ。

君だ。

あれは、紛れもなく君だ。

ちゃんと見てたよ。

嬉しそうにご飯をかきこむところ。

あれは、君だったよ。

 

今は、何をしているんだろうか。

もう、大人になってるなぁ。

今頃きっと、あったかい家族としあわせに、暮らしているといいなぁ。