本日はNew Year's Eve

30代OLが「書き手」になる夢を叶えるドキュメンタリー

灰色の世界に必要なのは

「……ざけんな、ばぁーろー」

 

春だなぁ。

缶チューハイを片手におじさん達が公園に吸い込まれていく。

 

冬の間、このおじさん達はどこに潜んでいたんだろうか。

春一番を合図にどこからともなく現れ、

見るもの全てに文句をつけながら、ふらふらとどこかへ消えていく。

 

休日の公園は、恋人達や家族連れで賑わっている。

 

ように見える。

 

でも、よくよく見渡してみると、

片手に缶チューハイはあちこちで見られるし、

池とスマホの画面とを

ただ交互に眺め続けている人も少なくない。

それに、池の水はよどんでいるし、なんだか臭う。

 

「何が都会のオアシスだ」

 

部屋の中にいたら日差しが暖かそうだったから外に出てきたのに、段々と視界が霞んでくる。

 

家に帰ったらあれをしなきゃ。

うわ、あの仕事まだ終わってなかったんだ。

週明けには、あれも片付けなくちゃ。

 

緑に囲まれているというのに、

段々と見える景色は灰色に変わってくる。

 

いつからだろうか、こんな風に変わってしまったのは。

いつまでだろうか、こんな生活が続くのは。

 

気付けば、見たくないものばかりを探し、

聞きたくないことばかりに耳をそばだてるようになる。

 

日常がつまらないのは仕方がない。

夢を叶えるには辛い日々を乗り越えなければいけない。

 

本当にそうだろうか。

 

白いワイシャツのボタンを上まで閉めて、

なんの個性もない黒のパンツを履き、

髪は邪魔にならないように後ろに束ねる。

 

「つまらないなぁ」

そりゃそうだ。

そんなつまらない格好をしていたら、

何をしててもつまらない。

 

ロイヤルブルーのスカートに着替えて、

真っ赤なトートバッグを肩から下げれば、

物語は動き出す。

 

お気に入りのリップを塗って、

チークで頬をふんわり彩れば、

それだけでなんだか口角が上がってくる。

 

気分が落ちていると、鮮やかな色を身につけることに、気がひけてくる。

鼻歌を歌ってはいけない気分になる。

 

色を消して、地味な暗い色に包まれることで、

前に進むことを拒もうとする。

 

でも、誰にそうしろと言われたわけじゃない。

 

灰色な世界を作り出し、

留まり続けているのは、

全部、自分自身だ。

 

そんな状態で、ふらふらと「自分」を探しに行ったって、見つかるわけがない。

 

好きな色を身につけ、

お気に入りの歌を口ずさめば、

見える景色はどんどん変わっていく。

 

一度や二度、似合わない色を身につけて恥ずかしい思いをしたからって、鮮やかな色が似合わないとは限らない。

いろんな色を試してみるからこそ、

好きな色、似合う色が見つかってくる。

 

「本当に」似合う色も、存在しない。

 

「違うかもしれない」という不安が、色を霞ませる。

その時その時で、今の自分が選ぶ色を信じたらいい。

年を重ねれば、似合う色も変わってくる。

同じ色に固執する必要だってないんだ。

 

見たことのない色には自然と心惹かれる。

自分には無理と諦める必要もないし、

似合わないのに無理して手を出す必要もない。

 

ただ、その色を見つめた時、思い出した時、

どんなメロディが聞こえてくるか。

耳をすませばわかるはずだ。

ウキウキするような曲なのか、

悲しく切ない旋律なのか。

正しいとか間違っているなんて、誰にも決められない。

メロディが聞こえれば、自然と心は反応する。

ただ素直になるだけだ。

 

大好きな色を身に纏い、

心弾む歌を口ずさんでいれば、

世界はダイナミックに動き出す。

 

たとえ暗闇に包まれても、

自分の色があれば、

決して闇に溶けて消えてしまうことはない。

 

世界が灰色に変わってきたら、

心弾むような色を身の回りに集め、

胸が踊る音楽を流しておく。

 

世界を変えるのは、

自分でしかない。

 

ある時、意を決して友人に聞いてみた。

「見えないって、どんな感覚なの?

ずっと、暗いの?」

彼はやさしく微笑んだ。

「暗くはないよ。

見えないけど、わかるから。

空は青いって、知ってるよ」

 

手話もわからないのに、聞いてみた。

「どうしてダンスができるの?

なんでわかるの?」

力強く動く手が教えてくれた。

「聞こえないけど、動きは見えるよ。

それに、ズンズン響くのは伝わるよ」

 

世界には色と音が溢れている。

 

例え見えなくても、聞こえなくても、

感じる時、伝わる時があるという。

 

だったら。

自ら見えないふり聞こえないふりをすることに、なんの意味があるのだろうか。

 

辛いことがある度に、

灰色の布をかぶって隠れ続けてきた。

 

そうすれば、誰かがきっと見つけてくれるから。

「大丈夫?」って、あったかい手を伸ばしてくれるから。

 

でも、そこには色も音もない。

そんな世界、つまらない。

 

前に進むには、

色も音も自分で選ぶしかない。

それはきっと楽しいはずだ。

いつでも好きな色と音楽に囲まれれば

自然と力が湧いてくる。

 

それでも自分だけではどうしようもないこともある。

そんな時のために、映画や音楽や物語がある。

 

色が伝わるように、

音が感じられるように、

思いを込めて創られる。

 

たったひとりに届けるために。

全てを注ぎ、創られる。

 

そんな誰かの強い思いに触れた瞬間、

鮮やかな景色が見えた時、

熱い音楽が奏でられた時、

きっと、心が動き出す。

 

映画『ラ・ラ・ランド』

 

人は、どんな瞬間も美しい。

人生は、どんなに切なくとも愛おしい。

 

この映画から色と音楽を消してしまったら、

なんともつまらない作品になるだろう。

 

自分のいる世界も同じだ。

色も音も自ら奪ってはつまらない。

 

もうすぐ暖かい春がやってくる。

探せば探すほど、

心弾む色が目に映る季節がやってくる。